TCXO使用、GPSDOにも繋がる
マーカー発振器の製作


自作のトランシーバーやアップバーターには通常、複数、あるいは高い周波数の水晶発振を用います。
発振周波数は製作時に周波数カウンター等で確認しますが、周波数の高さ、季節の変化その他の原因で、予定からずれていることもしばしばあります。

偏差の確認のためには、装置をラックから降ろしてケースを開け、場合によっては一部を分解して計測しなければなりません。
手軽に偏差を測ることが出来ればと思っていました。

そこへ、GPSの電波から取り出した1Hzの信号を用いて、PLLによって、誤差が0.03Hzという超高精度な10MHzの基準信号を得る、PLL-GPSDOという装置が実用化され、比較的安価に販売されているという情報を聞きこみました。奇想天外でした。

好奇心がムクムクと頭をもたげました。私も、これを使いたい!
これを用いたマーカー発生器を作れば、殆ど絶対的な拠り所をもって上記のような偏差が調べられそうです。
ネット通販を調べ、早速翌日ベーシックなものを1台、注文しました。

<装置の考え方>
GPSDO出力の10MHzを受け入れ、そのまま増幅した10MHzと、これを1MHz、100kHz、10kHzと切り替えて分周し、出力する装置です。
自作機でこれら出力の高調波をマーカー信号として受信し、表示周波数と比較しようというものです。

10MHzのTCXOも内蔵し、GPSDOが無いときはこれで発振させ、相当精度のマーカー発振器とします。
(これで既に私には十分とも言えますが、超絶精度のツールも持ちたい!! ← 猫に小判?)

さっそく考えを絵にしてみました。手書きですが、回路図を添付します。Rev.2で、後記のトライアルの結果により改訂されています



回路の前半は、インバーターとNANDを用いた、基準信号の増幅と切り替えです。
GPSDOからの10MHzの信号は余り強くないようなので、入力をインバーターに帰還抵抗(?)をつけた、オペアンプの手法で増幅します。
アナログ使いのため、インバーターは74HCU04(バッファーの無いもの)を用いました。

その出力を、3つのNANDゲートを用いて、内蔵TCXOの出力と切り替えます。
内蔵TCXOを用いる時には、外部入力の影響を受けないように、インバーターの電源自体を切断します。
(逆の時は、TCXOの電源を切断)

一方のTCXOの出力波形を見てみると、下の写真のような、イカツイのこぎり波でした。
出力周波数は、短波帯10MHzの標準電波と比較して、2Hz程度の差異でした。

TCXOの出力電圧は、ピークで1V弱で、NANDをドライブすることが出来ませんでした。
最初、U2-1のNAND(アンバッファーではない)に抵抗で帰還をかけ、増幅してやりましたが(無茶するなぁ)、やめて回路図のように、同NAND入力に100kΩ×2個でバイアスをかける方法に変えました。
結果は同様でした。



切り替えスイッチSW2-3を通った、装置の出力は、下の左の写真のようです。
デューティは50%から少しずれ、少しリンギングが出ています。これでもトライアルの末、若干の改善の結果です。(いいわけこわけで、日が暮れて~)
改善の前は、下の右の写真のように、かなりのオーバーシュートが出ていました。改善の状況は、後述します。

  

リンギング等については、考えてみたら、今回はマーカー出力の高調波に期待をしているので、波形の多少の歪みによる高調波も悪くは無いと思い、そのままとしました。 ^^;)

回路の後半は、上記10MHz出力を受け入れ、1/10に分周する回路を三段に設けて、1/10、1/100、1/1000と、分周比を次々に切り替え、それぞれ1MHz、100kHz、10kHzを得るものです。
ロータリースイッチで出力の取り出し点を替えますが、取り出した点より後のカウンター(分周器)は、リセット端子をHにして止めてしまいます。余計なノイズの防止策です。
3つのリセットの切り替えに、ロータリースイッチを2回路使っています。ダイオードマトリクスを使えば、1回路分ですみますが、SWの回路が余っていたのでこうしました。これでダイオードの数が大幅に減らせ、回路も簡単になります。

用いた74HC390には、10進カウンターが2セット入っています。この10進カウンターは、2進カウンターと5進カウンターよりなるもので、通常は、2進を先に使ってその出力を5進のクロックに持って行きますが、今回は5進の出力を2進のクロックにつなぎます。
これにより、出力のデューティサイクルが50%となり、高調波出力の増大に都合がよいと思います。
(偶数倍高調波は、減るのかな?)

<製 作>
はじめにケースありき。
今回は、シールドの必要が余りないので、手持ちの黒ずくめのプラスチックケース(8cmW×12cmL×4cmH)を用いました。
前後のパネルも黒いプラスチックでしたが、スイッチやコネクターのネジが緩まないよう、アルミ板に取り換えました。ちょっと明るくなります。^^)

基板は、ケースに合わせて6cm×7cmの蛇の目穴あき基板を用いました。プリント基板より小型に組むことが出来ます。回路やICの変更があっても対応しやすいよう、ICにはソケットを用いました。

配置関係は、発振器、ICから端子、ロータリースイッチまでの、高周波(特に10MHz、1MHz)の取り出し経路が極力短くなるように計画します。

ロータリースイッチは手持ちのTS-520分解品でノンショート型ですが、タッチが固いので、やはりTS-520のバンドスイッチ用のレバー(?)付きのつまみを用いました。これなら軽く回せます。
コネクター類には小型のものを選び、入出力の信号端子にも、小さく済むRCAピンジャックを使いました。

出来上がったものは、下の写真のようです。
  
  


<動 作>
特段の問題なく動作しました。気になる出力波形は、下のようでした。

  

1MHz出力



100kHz出力



10kHz出力  (時間軸はそれぞれ切り替えて1サイクル2目盛に合わせている)

1MHz出力に10MHzが少し残っている、その他の難はありますが、実用上問題ないと考えます。

自作トランシーバーやトランスバーターで早速受信して試してみました。
出力にクリップコードをつなぎ、出力周波数を切り替えて受信し、表示される受信周波数のずれを確かめました。
144、430MHzと、上の周波数になると、10kHzや100kHzの受信は難しくなりますが、1MHzや10MHzの高調波は、受信可能でした。

ただ、SSBモードでこれらの信号にゼロインすることは難しく(トランシーバー内のフィルター(またはDSP)でキャリアが切られてしまう)、数十Hz以内の偏差は、追いきれませんでした。
これ、考えてみたら当たり前、ちょっとうかつでした。^^;)


<10MHz波形の改善トライアル>  (失敗談です。 ^^;)
TCXO出力は見事なノコギリ波で、私の自作周波数カウンターではまともな数値で計測できませんでした。
U2-1、U2-3を通った出力信号にも大きなオーバーシュートがあり、やはりうまくカウントされませんでした。
TCXOを活かしての周波数カウンターの較正が出来ないわけで、これはちょっと悩みでした。

ノコギリ波をまず方形波に整えるため、TCXOとU2-1の間に、高速コンパレーターのTL712を入れてみました。これが正攻法と思いました。
U1(14ピン)をソケットから抜き取り、そこへ無理矢理8ピンのTL712を挿入して回路を仮組みしました。
このICは入力にセルフバイアス回路を持っており、信号をそれにうまく合わせるためにマイナス入力側の電圧をあれこれとトライアルし、我慢できる程度のデューティ比に持っていきました。

オシロで見る10MHzの出力波形は、相当に改善しました。
これで、自作周波数カウンターでもうまくカウントできるようになりました。
外部(GPSDO)からの入力用にも、同様の回路を増設しないと・・・、と思いながら、コンパレーター自体の出力波形を改めて確認すると、何と、まだノコギリ波に近い波形。U2-1の出力で、前記のオーバーシュートした波形と同様でした。何だ、コリャ!
コンパレーターの出力がノコギリ波とは・・・・。

それだったら、元の回路での10MHz出力に、U2-4を活かしてもう一段バッファーを付けたら良いのでは?
仮配線して試してみると、まさにその通り、コンパレーターを使わず、同等以上の波形が得られました。

すごすごとTL712を取り外し、元のように裏配線を組み戻し・・・。
トライアルと、2回の組み替えのため、裏配線の蛇の目がいくつもはがれてしまいました。hi.

ノコギリ波を論理回路に受け入れる場合は、バッファーを3段以上入れなければならない、というのが今回の教訓でした。

失敗談にお付き合い頂き、ありがとうございました。


<PLL-GPSDOの接続>
色々なトライアルも終わり、マーカー発振器がラックに収まって2か月近くが過ぎた時、〇Bayで注文していたGPSDO、超高精度の10MHzPLLが入荷しました。納期より大幅に遅れての到着でしたが、封筒を見ると、何と「AIRMAIL」と書かれていました。hi.

装置本体に、GPS用のアンテナと、簡単な電源が付属していました。
動かしてみると、アンテナを窓に貼り付けた場合、PLLが10秒程度でロックし、15分位でアラーム(誤差が0.1Hz以上)の赤ランプが消えました。出力は1V余りの正弦波でした。

窓辺の机の上にアンテナを置いても、30分かけると赤ランプが消えました。 (下の写真)



最初、セットになっていた簡単なアダプター形式のスイッチング電源を繋ぎこんでいたのですが、SSBモードでその出力の10MHzを受信してみると、かなりのハムが混入していました。
(ピーとは聞こえず、ビーと。)
電源を、Li-ion電池×3シリーズのものに取り換えて、きれいな音になりました。やれやれ。

次にその出力と、10MHzの標準電波を受信機で鳴き合わせてみました。ビートは判りませんでした。
さすがの超高精度です。
因みに、TCXOを使ったマーカー発振器出力は、標準電波の音調と、わずかですが違いが判りました。

自作の周波数カウンターで測ってみると、10,000,000Hzを表示しました。(意外!?)

GPSDOの出力を、前記マーカー発振器のEXT-10MHz端子に入力してみると、内蔵TCXOの場合と同様の波形の出力が得られ、分周も同じように働きました。トライアル無しでした。やれやれ。

私には、猫に小判の超高精度ですが、少なくとも今後は周波数カウンターを疑いの眼で見る必要が無くなります。hi.
ま、一つくらい絶対に信頼できるものがあってもいいかな。

<それにしても・・・>
以前、PLLに取り組んでいた頃から、基準周波数が10kHz以下でのPLLは実用性が無いと、ずっと思っていましたが、基準周波数が1Hzで正常に動作し、しかも超高精度に発振するというのは、今でも不思議です。←こうして浦島太郎になってゆく・・・。



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