ノイズブランカーのお話
- ノイズとの格闘記 -

本ページは、他のページと少し違い、内容はやや、シリアスで詳細です。
ノイズブランカーで苦心されている方々のご参考になればと思い、私の場合の失敗例や意外だったことを、赤裸に、長文を厭わず、ご紹介する事にしました。
回路図(特に没にした分)や、レイアウト等、お見苦しくて、すみません。

<基本の考え方>
当地では、外来のパルス性ノイズがHF、6mとも極めて高いレベルで存在します。
(Sメータで6から9+の範囲。雨の日は、消える)。
しっかりしたノイズブランカーが無ければ、生きていけません。

TS520のノイズブランカーの効きは、抜群でした。(S9のノイズも消える)
しかし、ルーフフィルターが無かったため、強力な信号が出現すると、100kHz離れていても、ノイズブランカーが効かなくなりました。
TS600や700はIF段でルーフフィルターを持っており、強い信号の影響は少なくなりました。
効きは520より落ち、消えないノイズもありますが、強信号問題を考えると、効果に納得が行きました。
6mオールモード機では、基本としてTS600のノイズブランカーを再現する方針としました。



<トライアルの経緯>
① ’90年代に、最初のユニット(下の写真)を製作。上が回路図です。15kHz幅のルーフフィルターを入れました。
ノイズゲートは、TS-520を参考にし、ノイズアンプとパルスアンプは、TS-600の回路を使いました。
最初は、バルボルで信号電圧を測っていました。



② ノイズアンプが発振。
種々トライアルの結果、アンプ最終段をFETに変更してゲインを下げ、発振を止めました。
しかし、雑音を耳で聴いても、ノイズブランカーの効果は、はっきり判りませんでした。
 (一通り働くようにするのに、正味1ケ月ほどを要しました)

③ 多くの時が流れ、送信部の各ユニット完成後の2016年、ノイズブランカーを見直しました。
偶然入手していたTS700のジャンクのRF+NB基板のうち、NBだけ動かしてみると、TS700の方が、明確にノイズを除去しました。
自作ユニットは、改善が必要だ―。

④ 調整に今度はオシロを用い、IF入力、ノイズアンプ各段の増幅状況、ノイズ出力、ブランキングパルスの状況を確認。



写真左   NB入りのノイズ(下段)
写真中    ルーフフィルタ出(下)と、ノイズアンプ出(上)
写真右   IFフィルタとアンプの出(下段)

NB入りのノイズの波形は、猫の毛が逆立ったような、ものすごいものでした。大変驚きました。
これが、ルーフフィルターを通ると、もっともらしいパルスに変わります。(これが、TS520との効きの違いか~)
ノイズアンプの出力はこれと符合していますが、低いパルスの時は、小さな出力しか出ていません。
IFフィルターを通った後(NBはOFFの時)では、ノイズが幅広に大きく化けており、これでは除去が困難です。

ブランキングパルス(下の写真の、上段が、一例です)は、同じIF入力を分岐して、TS-700との比較もしました。
自作機のブランキングパルスはまばらでした。もっと増やし、増幅しなければ。

考えてみれば、ルーフフィルターを出たノイズ信号を、全部、1V余りにまで増幅しないと、ブランキングできません。
大変な増幅をする一方、ノイズアンプを発振させてはなりません。

前記トライアルの間に、増幅段の一部をFETに替えましたが、また元に戻しました。
ノイズアンプ後尾のトランスの出力をオシロで見ると、発振が見つかりました。
(アンテナを外してもここに高周波があれば、自己発振。)

ノイズアンプが発振すると、ノイズ信号は埋もれてパルスが出ないので、NBは作動しません。
うまく行ったようでいて、「少し発振」、「調整中に発振」という現象もありました。
(調整が出来たと喜んで、もう一度ノイズアンプ出口のトランスの出力を見たら、発振していた、など)

⑤ 各増幅段のタンクコイルにQダンプの抵抗を取り付け、発振を抑えました。
最小限のQダンプ(最大値の抵抗)を求めてトライアルしました。
しかし、増幅率は低下し、満足なブランキングパルスが得られませんでした。

⑥ ノイズアンプ行の信号取り出し部を改善、高増幅のFET・トランジスタへ変更、トランスを巻きなおし
(バイファイラ巻)、Qダンプの再調整など考えられる種々の対策を行いました。
しかし、ノイズアンプのゲインの確保と、発振の防止を両立させることは出来ませんでした。

<ユニット再製作>
この基板は不安定と諦め、両面基板(上面は全面グラウンド)で作り直しに。 (写真下)



⑦ オシロのプローブで繰り返し挟まれ(捻じられ)、ノイズアンプ出のダイオードやパルスアンプのトランジスタの足は、可哀想な位に曲りくねっていました。
トライアルのために、専用の強いテストポイントの設置が必要と痛感しました。
(ラグハトメも、トライアルが過ぎて千切れることを何回も経験している)

⑧ ノイズゲートは、TS520のDiが4個のバランス型、TS600のシングル型とも試しました。どちらも、結果に差は感じられませんでした。
ゲートをクリップコードでoff(ダイオードに逆方向電圧をかける)にしたら、IF信号は殆ど遮断されました。
動作に疑いはありませんでした。問題はやはり、ノイズアンプに・・・。

⑨ 今回の回路構成では、NBの出口から、IFの入口まで、信号は逆流が可能です。
上流から分岐するノイズアンプは、発振しやすくなると考えました。
また、ブランキングする時、パルス電流がトランスのコイルに流れれば、これがノイズを作り出すリスクも想定されました。
これらから、IF回路とノイズアンプの独立性を確保するために、作り直しに当ってはバランス型がベターと考えました。
ブランキング時の減衰も、さらに3dB改善すると思われます。
(ノイズゲート前後のトランスのリンクも、バイファイラーで巻きなおしました。)
下が回路図(最終形)です。



⑩ 両面基板で再製作したユニットは、前作よりも発振傾向が減少しました。
しかし発振を無くすることは出来ませんでした。
パスコンを増設、最終段から順にQダンプの調整などのトライアルを行いました。

Qダンプに伴って増幅率は下がり、ノイズアンプ出口の信号レベルはどうしても低めでした。
パルスアンプの2SC733は大分前に、HFEの高い2SC373に取り替えており、パルスの電圧は十分でした。
しかし、弱目のノイズには感知せず、パルス出力がまばらな状態から抜け出せませんでした。

TS700のユニットは、自作ユニットよりゆったりと作られています。
自作ユニットはスペースが狭すぎるのか、或はコイルに何らかの違いがあるのかと疑いました。
また、現在の基本構成にも限界を感じるようになりました。(本当は、腕が無い?)

⑪ ノイズアンプのゲインが大きいので、発振に引き込まれるような強信号を避ける仕組みを設ける考え方もあります。
(AGCの強化、手動のゲイン調整など)

再々度の製作を覚悟し、コンパクトなユニットで良好なAGCがかけられる方法として、昔使ったLM373の使用を考え付き、テスト用にノイズアンプの独立基板を製作しました。LM373内蔵の後段の二重平衡増幅器(復調器)は、BFO端子から直流を入れ(抵抗でグラウンドに接続し)て、ただのIF増幅器に変えました。

⑫ LM373は極めて安定、スペック通りAFを出力させない変則的な用法にも関らず、AGCもスムーズにかかりました。
しかし、出力電圧が0.2Vp-pと十分ではありません。
LM373の前段に、FETのアンプを取り付けた所、信号平均値は明らかに上昇しましたが、0.2Vを超えません。
これも諦めました。

 (FETをLM373の後段に用いれば、電圧を上昇させられたはずと気がつきましたが、後の祭り。)

<バイアス印加で、解決へ!>
⑬ もう一度、先の両面基板に戻り、小さなノイズ出力でパルスを発生させる方針にしました。
そのため、パルス発生トランジスタのベース回路に、バイアスをかける事にしました。
シリコンダイオードの順方向電圧降下を利用する方法、抵抗分割による方法があります。
 (後から考えると、オペアンプLM358を用いる手もありました。)

より確実と思われる、シリコンダイオードによることにしました。
トランスのリンクのコールド側から、トランジスタのベースまでの全体に電圧を与えます。
 (一部だけでは失敗しました。ダイオード2個シリーズもNG)

⑭ 上記の結果、驚くほど小さなノイズのピークでもパルスが発生するようになりました。
TS700のNBユニットよりもパルスが多いくらいです。
(TS700が、こんなことをしなくてもパルスを出せている理由は、まだ判りません。RFの信号レベルかもしれません)

これで、本ユニットを実用に供する目途がつきました。
ユニットのトライアル再開からここまでで、ほぼ毎日、2か月、その前と併せて3ケ月を費やしました。
(安堵で、大きなため息が出ました。)

ノイズがさらに少しでも減少するよう、ノイズゲート周りの各CRの値、回路をトライアルして追い込み、完成としました。


写真左  ルーフフィルタ出(下)と、ノイズアンプ出(上)
写真中  ブランキングパルス(上)と、NB出力(下)
写真右  同上。ノイズゲートを、プルアップしない時

その他参考として、

⑮ ノイズがブランキングされるノイズも少し発生します。
ブランキングパルスのラインに付けるパスコン、ノイズゲート注入部のパスコンの値、電圧固定側に入る抵抗の値なども、影響します。
上記の追い込みで、合わせてトライアルし、一番ましな状態にしました。

<注意を要する点>
回路図上に*で示す事項について

*1 TS600では、NB中にIFのポストアンプが組み込まれています。
NBで発生する小さなノイズの影響を少なくするため、またハッキリとブランキングするため、或は信号の逆流による発振のリスクを下げるために、ここにポストアンプを組み込まねばならない可能性も想定されます。(プリントパターンには入れました)
しかし、3SKのFET1個では、強信号時の飽和が懸念されるため、余程の場合以外、設置しない事にします。

*2 ここのコンデンサーを、TS600の通り0.01にすると、ブランキング直後の電圧の復帰が遅くなり、同時にノイズが増えます。0.001が良かった。

*3 ノイズゲート用のダイオードには、メーカー製では1SS16、1S73A、1S1587などが使われています。
1SS86は、手持ちで最良の素子ですが、これがベターかどうかは不明です。
(上記前2者はいずれも入手難、1587は余り良いと思われない。)

*4 ノイズアンプは発振しやすいため、ノイズアンプからの帰還が起こりにくいよう、バランス型のノイズゲートとします。
リンクはバイファイラ巻。
ノイズパルスが回路の上流から少しでも遠ざかるよう、ブランキングパルスの注入点を、後流のトランス側に移しました。(気休めか)
ブランキングパルスの配線は、少しだが短く出来ます。

*5 この抵抗を省略(+側に持ち上げず、ケミコンの充放電だけでダイオードの逆方向電圧を保つ)しても、回路は動作します。
上の右端の写真が、この場合です。ノイズの小さなピークが残っているのが判るでしょうか?
やはり、この抵抗(プルアップ)を設けた方が、ブランキング時に漏れるノイズが少なくなります。
ケミコンを大きくするだけでは、解消しません。

しかし逆にこの電圧を高くすると、ブランキングに伴うノイズが多めになります。トライアルのポイントです。

*6 このバイアスダイオードは、適度な電圧を発生する必要があります。
(いくつかの種類をトライアルする事が望ましい。)
また、ダイオードに電圧を供給する抵抗の値も、トライアルの対象。
ダイオードで高めの電圧を発生させ、それを抵抗で落とす方が良いかもしれない。

*7 このAGCは、動作の安定に極めて重要と思うが、TS-600では、2段にわたって抵抗で電圧が落とされているなど、難度の高い構成になっています。
(直結や一部直結にしたら、動作が非常に不安定になった)
Trの出にはケミコンが無く、AGC電圧には多量の交流成分が含まれていました。交流成分をほぼ無しにするためには、10μFが必要でした。これは、付けるのが正解と思います。

<その他全般>

1)ノイズアンプは、小さく詰め込まれる割にハイゲインです。
動作が安定するよう、打てる対策は極力打つべき。
両面基板を用いる、パスコンは余分な位とりつける、できればゆったりとした配置にするなど。

2)ノイズブランカーに関しては、メーカーで実績のある回路を、ほぼそのまま用いたつもりでした。
  しかし、そのままで性能を再現することはできませんでした。
難度の高いアイテムと言えます。(腕が足りない?)
あるOMの場合、NBのゲイン調整のつまみがパネルに出ていました。

3)外来ノイズは、その強度、ブランカーでの取れやすさが日々(時々)変化し、ブランカーのテスト条件は変動します。
昨日うまく動いていたユニットが、何もしないのに、今日は効果が感じられない、と言ったことは当たり前。
昨日の事を、しゃにむに今日再現しようとしてはいけない。
他のリグでも、しばしばノイズの状態を確認する必要があります。
当地では、雨の日はノイズが無くなるため、調整が出来ません。

  DDS(マイコン制御)のオシレーターを調整に使っていたが、これからも相当のノイズが出ていました。(外乱要因)

4)ノイズを耳で聞いて調整するだけでは、大きな限界があります。
ノイズをオシロで確認しなければ判断が困難です。Sメータも参考に。

5)ノイズアンプ出力とブランキングパルスには、波形確認のためのテストポイントの設置が不可欠です。
上記出力トランスのリンク出口にも、仮設のテストポイントが必要。
(高周波のため、常設すると、動作不安定の原因になる心配がある。)

6)ノイズアンプのゲインを加減できるようにするのは、ひとつの案だと思います。
信号が弱い時に、必要なレベルでNBを効かせることが出来ます。

  同じ意味で、RF増幅のゲインと、NBノイズアンプのゲインの組み合わせも重要です。
ノイズアンプは、飽和すると台無しになります。(ノイズはどこへ?)
(NBのAGCを、RFアンプに効かせることも考えましたが、電圧変動が多いため、実施に至っていない。本体のAGCに期待。)

TS600のノイズアンプ初段のタンクに大きなQダンプ抵抗が入っているのは、動作の安定化のためと思っていましたが、ゲイン低減調整の意味もあるのかもしれません。

<あとがき>
ノイズブランカーは、良く効くものがなかなか作れませんでした。
今回、良い(はずの)回路から出発したにもかかわらず、通算で正味3ケ月もの時間を費やしたのは、その難しさによるものでしょう。

ノイズという、捉えにくいものと対峙し、来る日も来る日も言う事を聞かないユニットと格闘した幾月でした。
出来上ったものの効果が、出発点であったメーカー製と余り違わないという現実には悲しい気持ちもあります。
しかし、納得のゆくノイズブランカーが、予定のスペースで実現できたという安堵の方が大きいです。

やれやれ。お付き合い、ありがとうございました。  KABにも、意外にマジメな側面がある?


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