トランシーバーのお話 その2



<構想30年・・・>    


作りたかったのは、次のような特長を持つ、トランシーバーでした。
これが、30年前の私の、夢のリグでした。

 ・ 50MHzで、オールモード
 ・ 50MHzから、54MHzまでを、全てカバーする。
 ・ デジタルのVFOを搭載して、QRHを排除。 小型化のため、
   DDSを用い、マイコン(まだ使い方も判らなかった)で制御する。
 ・ 大きなLEDディスプレーで、周波数を読み取りやすくする。
 ・ IFは、10.7MHz、VFOは、PLLで、60.7MHzを発振する。
 ・ 外部VFOも、切替えて使えるようにする。(現有の5重PLLVFOのため)
 ・ イメージ妨害をキャンセルする、片側ヘテロダインミキサーを用いる。
 ・ AMとCWのために、それぞれ専用のクリスタルフィルターを製作して、搭載する。
 ・ よく切れるノイズブランカーを搭載。
 ・ IFシフトを搭載。(当時の6mは賑やかで、混信を起すこともあった)
 ・ スピーチプロセッサーを搭載。
 ・ アップバーターへの接続端子と切替スイッチを有する。
 ・ 出力は5W、または、10W。(リニアアンプがドライブできればよい。)
 ・ バッテリー運用も出来る事。

一番のチャレンジであった、デジタル+PLLで60.7MHzのVFOは、10年程で実現(「トランシーバーのお話」に出ています)した(はずでした?)。その先は、当時の技術と情報で、何とかなると思われました。
ケースは、とっくに購入していました。

<タニシの江戸行き>
まず製作は、いつも何故か、主として送信の部分から。
下の写真は、送受信兼用の部分と、IFアンプまでの部分です。



「さあ、それから」と思ううちに、本業は極端に多忙となり、出張も多く、鉄砲玉のような生活に。逆に製作は、思ったように行かない事は多く、何ケ月も間が空くうちに、段々、士気が低下し牛歩の進捗となりました。
年単位で、手が入れられなかった時もあります。

こんな時に、外地赴任(KOパンチでした)まで入って、このプロジェクトは、瀕死の状態となりました。
大阪から江戸へ行くほど長い道のりに、タニシのような遅い歩みが、川へ沈没の状態になりました。hi.

<再始動>
10年余りが経ったでしょうか・・・。
自分の時間も持てるようになり、赴任中にハマったPICマイコンを使った、エレバグキーの開発にも一段落した頃、当プロジェクトに戻って来ました。
再始動です。  (ターミネーターか?!)

しかし、設計の中身もかなり忘れています。 大丈夫かいな?

<トライアル、またトライアル>
自分で適当に考えて構築するシステムには、不満が付きまといました。
「妥協したくない」と考えては、今のユニットを諦め、作り直すという事も、繰り返しました。
作り直しが2回以上に及んだユニットも、多数あります。おバカな失敗もありました。
「何くそ!」という気持ちが徐々に士気を回復させ、エンジンが当初の馬力に戻った(ホンマか?)頃には、若いサラリーマンも既に会社を卒業し、頭髪は黒より白が多くなりました。 まさに、少年老い易く学成り難し!

読者の参考のため、初歩的失敗やトライアルに難儀した点について、恥を顧みず、いくつか挙げます。

 ・ 送信ミキサー入りIFが弱いと、局発漏れが増え、局発が弱いと、IFの高調波が増える。(皮肉!)
   ミキサー出に、4段同調回路(バリキャップでチューニング)を入れると、スプリアスに効果。
 ・ 送信部、受信部のテストや調整の時、キャリア・VFOユニットが大きいので使わず、
   仮設用の小さなキャリア発振器や60.7MHzVXOを使っていた。(これが間違いだった!)
   最後にケースに入れた時、キャリア、VFOともに注入レベルが仮設と違い過ぎ、
   増幅ユニットの改造、作り替え、増設、ミキサーの動作不調とその対策など、多くの修正が必要になった。
 ・ 送信ミキサーのポストアンプは、広帯域のトランス式NFBアンプ+複同調ユニットの複数段構成では、
   どこかで位相が1回転するのか、発振が止まらなかった。
   簡単なC-B間の抵抗帰還の方が、安定だった。 (ファイナルユニットは、後述)
 ・ AM用のクリスタフィルターは、4エレハーフラティス型では減衰特性が甘すぎ、実用はムリでした。
   ラダー型で、AM用8エレ、CW用6エレで、納得行くものが出来ました。特性の実測は、不可欠。
 ・ クリップコードを受信のアンテナにして各ユニットをトライアル、調整した後、本物のアンテナ(5エレ)
   を繋ぐと、ゲイン過剰となり、ノイズが多くて使う気にならず。また広範囲なトライアルに。(アホか!)
   IF+検波部と、AGCから始め、その後は実アンテナを用いてトライアルした方が、良さそう。
 ・ AGCとSメーター用のアンプを共用すると、Sメーターが振り切れになりやすかった。
   AGCは、オペアンプを用いてから、スムーズにかけられるようになった。
 ・ ノイズブランカーは、入りIF、ノイズアンプ出力と、パルスアンプ出力を、オシロスコープで確認し始めてから、
   実用的な性能を得るに至った。 この件は、別項で紹介する事にします。
 ・ 低ドロップ型定電圧電源IC(on-off付きなど)を多用したが、見つけにくい電源ノイズに悩まされた。
   当IC出口のケミコンの容量も、余り小さくしてはいけない。 DC-DCコンバーターを使うと、
   その入りの電源ラインに、激しい高周波ノイズが混入した。チョークコイル+ケミコンが必要だった。
   送信系統の電源ノイズ対策で、月単位の時間を要した。
 ・ AFアンプの電源を、他の回路と同じ電源から取ったら、RF、IF信号がAFに変調され、音質が悪化。

   

            受信部                         送信部

   

          60.7MHz VFO                 電源・制御部

<ファイナルアンプ>
当初の設計は、 下の図のような物でした(最初、Trは2SC1306)。
参考書では、50Ω負荷で電源が12Vの場合、出力5W用の回路との事でした。確かにこれは、実用上5Wが限界で、物足りなくなってしまいました。



1306の限界かと、パワーMOS、RD16HHF01(16W型)に替えました。
先に仮組み試作し、シングルで5W(入力は0.4W)出力を確かめました。これをプッシュプルで何とか10Wを・・・。

ところが、上図のプッシュプル回路にしても、出力は5W止まりでした(入力は1.8W)。大いに落胆しました。 つまり、上記出力不足は、素子の限界ではなく、1:1トランスしかない回路の限界だったわけです。

なおこのFETは、NFBをかけなければ不安定であり、ドレインからゲートへ、470Ωで帰還しました。
(直流は、コンデンサでカット)

1:4のトランスが必要と考えましたが、大きなものを入れるスペースがありません。そこで、下の左のものを順次試しました。
①は良くあるU字の筒の中に2t巻きスタイル。②~
④は、メガネバランで、下右図の回路で用いました。

   

余り目にしない回路でした。 しかし、純伝送線路トランスを使うので、効率が良さそうです。
これらのどのトランスでも、5Wの壁を超える事が出来ました。コアの発熱は、①から④の順に少なくなりました。①は効率が、②と③はコアが限界と思われ、④は効率と、コアが具合良いように思いました。
結局、上の回路と、発熱が僅かで出力が最大の④のコアを選びました。 狭いスペースにも入りました。
出力は、電源電圧13.5Vで、18W(4段π型LPF×2段の出口)でした。
RD16HHF01は、バイポーラに比べパワーゲインが高く、SWRが高い場合も、壊れにくいと感じました。

以上で、交信に使えるトランシーバーが、ひとたび(?)出来上りました。 ところが・・・・。

  トランシーバーの内部

<伏兵の出現>
さあ、やれやれと思ったのも束の間、思わぬ伏兵が・・・
VFOコントロールのマイコンシステムから、ノイズが出ていました。
ディスプレーも、スタティック点灯にしたのですが・・・。
VFOを触らない時に、システムを休止(スリープ)する方式、それを実現できるマイコンが必要です。
泣く泣くマイコンを取外し、歯が抜けたより、心臓が抜けた気分。

30年前のZ80から、今のPICへのマイコンシステムの変更は、完全に1からの構築となり、数年はかかりそうです。アチャー

当分の間、内蔵の60.7MHzのPLLに、以前作った5重PLLの外付けVFOを繋いで、オンエアする事に。
まだまだ、先は長いなぁ~

<蛇足>
夢の(?)トランシーバーの完成には至っていませんが、他の予定のスペックを盛り込むことは、まがりなりにも出来ました。が、30年の間にオンエアしている局数が大幅に減りました。
基板を2回も作り替えて時間をかけたIFシフトは、殆ど出番がありません。正月のQSOパーティ位です。hi.
トランシーバー自体の出番も、減りそう?

<再び、VFOを搭載>
2年半程外付けVFOを使ってオンエアしていましたが、ノイズの主原因がディスプレーがマイコンとバス直結になっていたことからの、バスノイズであるらしいことに思い当りました。マイコンとディスプレーだけを仮組で動作させてみると、確かにノイズが出ます。
マイコンユニットにパラレルIOが2バイト分あったので、これを使ってディスプレーを点灯させるよう、改造しました。
30年前のマイコン(Z80)システムです。古いパソコンを引っ張り出し、何とかROMの載せ替えをやりました。hi.

これを再びトランシーバーに搭載しテストしてみると、ノイズは相当に軽減し、使う気が起るようになりました。
2年半ぶりに内蔵VFOが復活! 久しぶりやったなぁ。

<まだまだ長い道のり>
VFOは復活したものの2年半の間に、送信部にはいくつかの不満が出現し、間もなく棚から降ろして分解、再改造の長期戦に入りました。もしかしたら、送信部全部が作り替えになるかも・・・。

また、VFOのノイズを完全に抑えるためには、スリープの出来るPICマイコンへのシステム変更が必要です。

まだまだ長い道のりです。
私が生きている間に終わらないかも知れません。hi.


-後日談-

<FM受信ユニットとスケルチ>
本機とアップバーターで144MHzFMに時々出るようになり、当初のFMIFユニット搭載のクリスタルディスクリの復調音の歪みが耳に障るようになりました。

 当初のFMIFユニット

思い切ってクワドラチャ検波を内蔵したIF用ICを使うユニットを製作(Rev1)し、これに置き換えると、音質は良くなりました。
ところが・・・。
スケルチは、VRで閾値(スケルチが作動してノイズが消える位置)を設定しても、しばらくするとノイズがブツ、ブツと聞こえ始め、そのうちにザーッという状態になりました。落ち着いてワッチできません。閾値のドリフトです。
また、デビェーション(変調)が深い信号の場合、音声のピークでスケルチがかかり、音が消える現象にも見舞われました。
一難去ってまた一難。

 作り替えたIFユニットRev1

クワドラチャ検波の出力には、低周波(音声)、IF、ノイズの3つが同時に含まれています。このうちのノイズだけを安定に取り出すのが難しいように思われました。しばらく毎日、オシロとにらめっこしながらあれこれトライアル。
IF(455kHz)のトラップを挿入するとスケルチの起動は少し改善しましたが、閾値のドリフトは収まりませんでした。

ICの途中からIFを取り出し、IFアンプとスケルチを別に組んだり、類似の別のICを使って再度作り替えましたが、解決しませんでした。

このICを使うとコンパクトで、復調音も良好ですが、スケルチが満足できず、
当初のユニットではスケルチは正常ですが、復調音が不満。

そこで、当初ユニットのうちIFアンプとスケルチ部(ディスクリ以外の全部。^^;)を新たに作り、Rev1ユニットからスケルチだけを省いたユニットをさらに作る事にしました。IFアンプは10.7MHz、Rev1はほぼ455kHzで動作するため、共通部が無く、二つのアンプを用いるしかありません。
下の写真のようです。スケルチだけのために、クリスタルフィルターを含め、アンプ一式を作っています。hi.
これら全体を、当初のIFユニットのスペースに押し込みました。

 IFユニットRev3

写真の左側がIFアンプと検波、右がIFアンプとスケルチのユニットです。スケルチのユニットは少し高い周波数のためセラミックフィルターが使えず、クリスタルフィルターと2つのトランスも必要となり、検波ユニットよりも大きくなりました。

これで、良好な音質と、安定なスケルチが実現しました。やれやれ。何だか力づくの解決だなぁ~。


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