リニアアンプのお話 その3
<新婚旅行の買い物は・・・>
ホノルルの街角で、道行く人にラジオパーツ店を訪ね歩くアロハシャツの青年が一人。その後に新妻とおぼしきムームー姿の女性が・・・。
これが1977年、私の新婚旅行の一幕でした。
結局3-500Zなる真空管を1本買い込み、大事に持ち帰りました。
ソフトボール位の大きさの真空管が、顕微鏡の箱位の大きさの、黄色い段ボール箱に入っていました。
飛行機では荷物を全部預けてしまい、この箱だけを大事に抱えて席に座った私、それまでがまんしていた新妻の顔色を見、ますますこれを抱え込んで小さくなるのでした。
<リニアアンプの構想>
2年後、3-500Zを追加購入し、これら(写真下)を使ったHFリニアアンプの製作に取りかかりました。
イメージしたのは、ヘンリーの2Kクラシックという、やはり3-500Zを2本使った、フロアコンソールのものでした。これは、可変インダクタンス同調のパイLマッチを搭載する高級設計、2時間キーダウンしても大丈夫という、しっかりものとの触れ込みです。当方の電源も、2Kクラシックと同じく本体から切り離し、フロアコンソールとします。
フィラメントは2段点灯、B電源は独立のスイッチがありますが、点灯完了後にタイマーで起動、電源を落としても、しばらくはファンが回る設計とします。
出力回路は、どう考えてもパイL回路となり、「それなら2Kを買ったらいいじゃないか」という事になるのですが、そこは頑固者ですから、どうしても買いたくありません。何か、2Kに無いものはないか・・・・。そこで、1.9MHzを搭載する事にしました。
費用を考えると、部品代だけで何と、2Kの価格をわずか上回ります。
これはもうあきらめて、いつものようにケチらずむしろ奮発して、一生飽きずに使えるものを目指す事にしました。
<部品の調達>
考えが決まったら、まず部品の段取り。
トランスの特注、真空管ソケット、磁器製のバンドスイッチや、高圧用バリコンの入手、2個のバンドスイッチをつなぐギヤーチェーンなど、特殊なものが沢山必要となります。
大容量のツェナダイオードはどうしても手に入らないので、小型のツェナの電流をトランジスタで増幅する事にします。これでリニアアンプの背中にトランジスタの放熱器が貼りつく、へんてこりんな組み合わせとなりました。
アンプ本体のケースは市販品が見つかりましたが、電源のケースは、家内の親戚の鉄工所に特注で、50cm×50cm、奥行き40cmのものを作ってもらいました。ボディは3mm厚のアルミ板です。これを鉄の骨組みに固定します。
高圧部はアクリル板で保護します。感電したら、ちょっと痛いですからね。hi,hi。
シリコンダイオードも、2500Vの整流には耐えないので、5個くらいずつシリーズにつないでブリッジを組みます。結局ダイオードのためにガラスエポキシのプリント基板が組み込まれる事となります。
写真左上は、電源装置の内部です。
<思わぬ椿事が・・・>
この電源の試運転の時ですが、高圧の測定器がありません。仕方がないので、テスターのプローブの先に抵抗を直列にくっつけ、それをプローブにして電流計で電圧を読み取る事にしました。
変な触り方をしてショートさせると怖いので、そろ~っと抵抗の先を電極へ持っていきました。当たった瞬間、!!ポーーーン!! と大きな音がして、抵抗がふっとびました。まさかの椿事に、心臓が飛び出しそうになりました。hi,hi.
良く考えると、電圧が高いので、当該抵抗の容量には何ワットかが必要な所、私は1/8W位の小さなものを付けていたのです。それにしても・・・・。やはり高圧にはそれなりの世界があるのだと思いました。
<製作は牛歩?>
その他、真空管にかぶせて風を逃がさないようにするチムニーは、理化学機器メーカーにパイレックスガラスでベル型のものを特注しました。写真上中。
「IWAKI」の銘がありました。
3-500Zは直熱管なのでフィラメントにはチョークコイルが必要です。市販品など無いので、ラジオのバーアンテナを6本貼り合わせた上に、3mm径のエナメル線をバイファイラ巻で巻きつけました。写真右上。
全体が大きいので、3mm径もあるように見えません、hi,hi。
何かとこのような具合で、部品を製作或いは改造しながら、準備を進めました。
製作は、大きい、分厚い、重い、などのため、牛歩のようでした。
例えばパネル面のメーター用丸穴を1個開けるのに1日、塗装に1日といった具合。前述のフィラメントチョークも、1日かけてバーアンテンナを貼り合わせ、1日かけてバイファイラコイルを巻くと言った調子で、結局1年かかってしまいました。hi,hi.
この時から、リグの製作に「年」を要すると思うようになりました。
写真左 シャーシ裏
写真中 シャーシ上面
写真右 完成!
こうして上の写真の如く、組みあがりました。
部品の入手難や、全てが大きくて面倒な事は半分諦め、いつもとは違う、その特殊な雰囲気を逆に楽しんだような製作でした。
<試運転>
製作の最後は、ケース上蓋の、真空管の上部に、放風孔をあけるという作業でした(6mm径の孔を、150個程)。
加工の後、孔の内周にペンキを塗ったのですが、これが乾くまで待てません。辛抱できずに試運転を始めました。
結果は、プレート電圧2500Vで、余裕をもって出力500Wが得られました。
(出力は、製作後40年近く経って、実測しました。hi.)
キーダウンの時間も、余り気にならず、ゆったりした気分でオペレートできます。
ひとしきりチェックして、「ペンキの所は、まだ触れないよなぁ~」とは思いながら、指でそっと撫でてみると、既に乾いていまいした。わずか2時間くらいの事でした。
そうか、真空管からの放風で、温風乾燥したか!
使い初めの頃、送信を続けていると、真空管のプレートが、下の方からほんのりと赤くなってくるのに気がつきました。内心、ギョッとしました。
しかしこの球はこれで良く、赤くして使う球との情報に、ホッとしました。
まあ、そそっかしい私で、いつも失敗に、赤くなったり青くなったりしていますから、真空管も真似をしているようです・・・・。 hi,hi.
<あとがき>
アマチュアに1kWが免許されるようになった今、このリニアも、電圧を3200V等に上げれば、もっとQROが出来ると思います。
しかし、DXサーでもない私には、改めて変更検査を受けたり、球の能力を100%、120%と引き出すより、ゆったりとオペレーションでき、球を長く使える方が、性に合いそうなので、これ以上を望まない事にします。hi.
そう言えば、かけっこは、いつもスローやったなぁ・・・。
続編へ リニアを3-500Zと 4-400Aの切替式に!
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