HFトランシーバーの製作



<4バンドなら120年かかる?>
HFで固定局用のリニアアンプを押せるSSBトランシーバーを作りたいと思っていました。
是非搭載したいのは、7、14、21、50MHzの4バンドです。
しかし、先に作った6mモノバンド機は、オールモードとは言え、構想から出来上がるまで30年が経っていました。これが4バンドだったら、その4倍、120年かかる計算で、私の寿命の方が先に来てしまいます。hi.

そこで思い出したのが、以前PIC版周波数カウンターでお世話になった、JK1XKP貝原OMが頒布されているキットです。(URLはこちら

<KP6Dキット>
貝原OMのこのキットは、HFから50MHzのうち、基本6バンドを実装可能(組合せによっては、バンド数が限られる可能性がある)で、回路設計がよく練られ、シンプルにまとめられています。
4枚の主な基板に機能がまとめられ、チップ部品を利用して、極めてコンパクトです。

私が希望する上記4バンドの搭載のためには、BPF部にサブボードの追加が必要なのですが、21MHzのBPF回路に14MHz用の回路を少し拡張する事で対処可能とのアドバイスがあり、手応えが強くなりました。
この構成で、10MHz、18MHzも使用可能です。これらはオマケと考えますが、一応6バンド機となります。

回路構成には、私なりのアイデアがあったのですが、このキットをコアにし、それを改造など将来アレンジする事でそれらも実現可能と考え、このキットを利用させて頂く事にしました。
改造等の余地のため、コンパクトに作る事は余り考えない事にします。

<目指す姿は>
このトランシーバーでHF500W、50MHzで200Wの各リニア(真空管式)をドライブできるものを目指します。(4極管アンプのために、1W出力も必要)
そのために、HFで50W、50MHzで30Wの出力を得られるものとします。
上記リニアの出力レベルは大きく、特に50MHzではスプリアス規格も厳しくなるため、何らかの対策の必要も想起されます。

リニアのドライブの加減のためには、パワーコントロールが必要、受信プリアンプはHFにも使えるもの、ノイズブランカ(リンクはこちら)も付加したい、などと当初から搭載したいアイテムもありました。

また、作りながら、出来上がったところまでを作動させられるよう、仮組機に組み込んで試してゆき、構成が固まったら、本チャン機に組みなおそうと考えました。

<製作は・・・>
各基板は、組み立てる前に紙をかぶせて部品面から鉛筆で下の写真のような拓本をとり、仮組機に取り付ける際に、基板の形状や取付穴をマーキングする際に使いました。



チップ部品が多く、まだ余り慣れていない私には、これを確実に基板に実装する事が課題でした。
貝原OMのホームページに、「SMD(表面実装部品)実装半田付けのヒント」というページがあり、これを改めて見、参照しながら進めました。

しかしチップコンデンサーはやや脆く、取付けを複数回やり直したものをいくつか壊してしまっていました。hi.
動作が思わしくない時は、このような箇所のチップコンデンサーを取り換え、或いは予め取り換えておいた方が良いようです。

最初の1~2枚のボードは、組み立てのあと、机の上でもテスト出来ますが、その後は仮組機に組み込んだのち、テスト・調整しました。
仮組みのために穴を増やしたくないので、既存の穴を極力流用、小さな基板は一本足や、二本目のネジの代わりに、ネジを使った杖(シャーシを衝いているが、貫通していない)で辛抱したものもあります。hi.

5段π型LPF、パワーコントロールのための電圧設定基板、パワーアンプ切替やノイズブランカー接続などのためのリレー基板など、自作の基板もいくつか作成し、組み込みました。
すっきりした緑色の基板がキットのもの、その他の色がバラバラの基板が、自作や流用品です。hi.

<失敗例 ^^;>
・ チップコンデンサーの取付けがうまく行かないとき、何回もやり替えた結果、電極付近に目には見えないクラックが入り、断線状態になっていたことが何回か・・・。(片方の半田を溶かすと、二つに分裂!)
チップコンデンサー付近の、別の部品の半田付けを何回もやり直した場合も、同じようになった事がありました。
これら、前述のように、新しいものと取り替えた方が無難です。

・ 電線のつなぎ間違いにより、ICがオシャカ、RFCや抵抗から煙が出たり、光ったり(!)した事もありました。トホホ。
やはり十分な確認が必要ですね。

これらの際、貝原OMから、「多分、このチップコンデンサーが壊れている」とアドバイスを受けたり、焼損したICや部品の代品を分けて(とてもリーズナブルな対価、また迅速な対応)頂いた事がそれぞれ複数回あります。
貝原OMのアドバイスやサポートにに感謝!

<VFOの変更>
キットには、大変小型でFBなDDS方式VFOが含まれています。搭載するマイコンは、VFOだけでなく、装置全体を制御します。
一方このVFOにはBPFが無く、DBM出力のRF部の同調型BPFでスプリアスを併せてカットする構成になっていました。これでスプリアスは、想像した以上に抑圧されていました。
しかし、50MHzで50W超に必要な-70dBc(スプリアス領域)には少し厳しいなど、改善したい点もありました。
試しに、先に製作したSGをVFOの代わりに使ってRF出力を測定すると、50MHzで-70dBcに到達できそうと判りました(異なるDDSを搭載していました)。

VFOの変更について貝原OMに相談した上で、SGと同じAD9850DDSモジュールを調達し、OMから制御マイコンの改訂版ソフトと、接続変更方法などをご提供頂きました。

これらを使い、新たなVFOを組み込みました。後尾のシャーシ裏写真で、青い小さな基板が、緑の基板の縁に乗っかっているユニットが見えるでしょうか? それが変更後のVFOです。

<パワーアンプのトライアル>
キットのRFコンバーターユニット出力が既に1Wあり、4極管アンプのドライブには十分です。
この出力を、そのまま、或はパワーアンプで10Wまたは50Wに増幅し、キットのLPFユニットに持ってゆく方針です。

パワーアンプとして、次の3つのアンプをトライアルしました。

- RD16HHF1 シングルアンプ -
キットに、RD16HHF1シングルで5W出力のアンプ基板が含まれていたのですが、欲張りな私は、シングルで10W出そうと、出力側に簡易な1:9のトランスを用いたアンプを製作しました。かなり小型です。
トロイダル・コア活用百科を参考にしました。回路図は次のようです。



このアンプで、+13.5Vの電源電圧で、7MHzで11.9W、50MHzで8.8W(いずれもLPF後)の出力を得ました。

当初、LPFユニット上のアンテナ切替リレーのRX側に漏れたRFがRXラインからコンバーターユニットに帰還し、50MHzで動作不安定になりました(同ラインを外すと安定になる)。
送信時に、上記リレーのRX側とGNDとをダイオードスイッチ(RX保護用ダイオードを流用)で短絡すると、問題解消しました。
この状況、製作した他のアンプでも同様でした。

- RD16HHF1 プッシュプルアンプ -
キットのオプションに、このプッシュプルアンプもキットで頒布されています。(URLはこちら
私もこれをキットで製作させてもらいました。

このアンプで、+13.5Vの電源電圧で、7MHzで17W、50MHzで13W程、
+19.5Vでは、7MHzで40W程、50MHzで20W(いずれもLPF後)の出力を得ました。
(50MHzでのLPF前では、27W)
+25Vまで上げてみましたが、出力は10%程度しか上がりませんでした。

オンエアに問題はありませんが、真空管リニアアンプのドライブには50MHzが少し不足なので、パワー増大を目指して、次のアンプを製作しました。

- RD16HHF1 パラプッシュプルアンプ -
貝原OMのプッシュプルアンプの回路をベースに、FETを4本使い、次のような回路としました。



T2とT3のメガネコアは、貝原OMから特別にお分け頂き、2個ずつ、それぞれリン青銅の薄板を巻いた筒を穴に通してシリーズ接続し、それを横に並べました。筒は、都合4本です。
たまたま手持ちにテフロンチューブがあったので、筒に嵌めこみ、金属に接触しないようにフォルマル線を巻きました。
テフロンチューブを使う代わりに、フォルマル線を耐熱電線に代えても良いと思います。

  

写真左 T2、T3トランス   写真右 パラプッシュプルアンプ内部

このアンプで、+19Vの電源電圧で、7MHzで61W、50MHzで35W(いずれもLPF後)の出力を得ました。
ローバンドでちょっと出すぎですが、いずれも真空管リニアをドライブする事が出来ました。

当初50MHzで、当アンプの出力をLPFユニットに接続した時に出力が20Wまで低下しました。
種々トライアルの末、50MHzではLPFをアンテナコネクター直前に設けた5段π型LPFのみとし、LPFユニット上の同バンド用LPFを取り外した所に、入側のリレーに替えて、高周波リレーを取り付けました。
この変更は効果があり、50MHzでの35Wを得ました。
20W以下の電力にはそれほど影響が無かった元のリレーでした。何がネックだったのか、不明です。^^;)

出来上がったパラプッシュアンプが、冒頭の写真でトランシーバーの上に乗っかっているものです。

結局、トランシーバー本体への組み込みには、小型であることから前記のシングルアンプ、外付けアンプにはパラプッシュアンプを用いる事にしました。

- パラプッシュプルアンプの、擬似シングルプッシュプル動作 -
パラプッシュアンプよりもシングルプッシュプルの方が、歪みがやや少ない事が判っていました。
そこで、パラプッシュプルのうちの2個、一対のFETをオフにして、いわば擬似シングルプッシュプルとして動作させてみる事にしました。

先の回路図の中で、2×PP、1×PPの切り替えスイッチは、そのモード切替用です。
このFETをカットオフするには-5Vのゲートバイアスが必要なのですが、テストで-5Vのバイアスを印加した所、50MHzで異常発振を起こしました。
ゲートに電圧をかけない、ゼロバイアスでは安定に動作し、歪みもシングルプッシュプルに近く、少ないものでした。(ただし、シングルプッシュプルと同じまでの出力は出ませんでした。^^;)
以上により、このモードは使用可能と考え、アンプにはこのスイッチを取り付けました。

- PEP電力計 -
キットのURLの末尾のプッシュプルアンプの回路図中に、ピーク電力を表示するRFメーターの回路図があり、キットにも基板や部品が含まれています。

SSB送信時にPEP、すなわちピーク値が表示されれば、適正な音声レベルの確認に役立つと思い、トランシーバー本体だけでなく、パラプッシュアンプにも組み込みました。下の回路です。



但し、使い慣れた平均値の指示計も欲しいので、ICの5ピンに繋がるCとGNDの間にスイッチを入れて、RFインジケータ―表示をピーク値と、平均値に切り替えるようにしました。

<仮組機から本チャン機へ>
キットや自作の各ユニットは、仮組機へ逐次組み込み、パネル面のスイッチやボリウムも増設しました。
仮組機に使ったケースは、鈴蘭堂の確かTX5というもので、1975年に電監での持込検査を受けた、殊勲の50MHzのオールモード機のものです。
分解前のオールモード機と、トライアル終盤の仮組機の写真、下のようです。
仮組機の前面パネルは、少し反っていますね。紙製です。タクトスイッチを押すと、ポコポコと音がしました。hi.
へしゃげないよう、アルミの上部内枠とサポートが付いています。hi.

  

写真左  ’75年の6m機    写真右  今回の仮組機

仮組みしながら装置の当面の構成が決まったので、これを本チャン機として組みなおしました。
外観が、冒頭下の写真です。
(冒頭の写真は、後記のRev1改造後なので、それとは少し異なっています。)



当初、「本チャンはケースを新たに準備して」と思っていましたが、仮組機並みのスペースは本チャンにも必要と思われたので、ケースの改造を思いつきました。
ケースの高さを数cm低くし、元のパネルを再加工しました。余計な穴7個を、たたき込みにより塞いでいます。

ユニットの配置を一部修正し、一本足や杖を含めて基板の取付けも修正、配線を整理して、内部の状況は下のよう(いずれもRev1改造後)です。

 

写真左  本チャン機内部    写真右  シャーシ裏

いくらか、今後の改造、アレンジのスペースを残しています。

<あとがき>
こうして、真空管リニアアンプをドライブ可能な、HF+50MHzのマルチバンド機が一通り出来上がりました。
約半年の製作期間でしたが、私にすれば大変速く、120年(?)と比べたら超高速です。hi.
(アレンジその他の邪念なく、すなおにキットそのままを製作すれば、もっと短期間で仕上がるでしょう。)

やはり、FBなキットをコアとして使わせてもらった事と、提供元の貝原OMのアドバイスやサポートがあったおかげです。
使いながら、今後の展開を考えてみたいと思います。


<改造 Rev1>
出来上がって1ヶ月余りで、次のような改造を行いました。

① PICマイコンを使った小さな基板を作り、選局用のロータリーエンコーダーの信号を、4倍速でデコードし、
  それを制御マイコンに送る。(リンクはこちら
  ダイヤル1回転で動く周波数が4倍になるので、つまみも大きなものにし、パネルの予備スペースに移動。
  これでパネルのデザインが少し落ち着きました。hi.
  冒頭の写真は、この改造の後のものです。内部とシャーシ裏の写真も、改造後のものです。

② 上記に合わせ、エンコーダー操作による周波数の増減ステップを少し細かく(約20Hz)しました。

③ 外付けVFOに切り替えられるよう、タクトスイッチを増設し、制御ソフトを変更。
  外付けVFOの場合は、内蔵DDSを停止させます。
  VFOの信号切替用には、リレーボードを増設。

④ 各バンドのデフォルト周波数を、好みの周波数に変更。

⑤ 50MHz用の受信プリアンプ(貝原OMの50MHzオプションとは別物)を、ゲインが高めのものに変更。
  J310パラのゲート接地広帯域アンプをHF兼用にしていたのですが、ゲインが少し物足りませんでした。
  これを、デュアルゲートMOSで入力側が同調型、出力側が広帯域のトランスのアンプに替えました。

上記③には、貝原OMのアドバイスを頂き、ソフト変更もOMのご協力を頂きました。

パネルの変更では、再びたたき込みによる穴ふさぎをやりました。
先にふさいだ穴に1/3ほどかかる新たな穴あけもありましたが、支障なく工作出来ました。

「ところで、上記の外部VFOとはどんなもの?」 ← それは追々考えます。^^;) ←オイオイ! *1

*1 スプリアスを高度に抑圧するため、シングルループPLLのVFOを作ることにしました。

<改造 Rev2>
① 将来の付加装置のために、バンド切替情報とスタンバイ信号を取り出すREMOTE端子を増設
   「どんな付加装置?」 ← まあ、まあ、まあ *2

*2 50MHzでの動作を高度に安定化させるため、50MHzではLPFを介して別のアンテナへ導く、アンテナ切替器を作りました。
50MHzでは、外部パワーアンプ出力をトランシーバー内のLPFに戻す場合よりも、スプリアス比が改善する事が判りました。

② エンコーダーを、以前製作したPLL VFOのRIT用光学式エンコーダー(1回転当り250パルス)と交換。
   RITにはちょっともったいないので、前から狙っていました。^^)
   4倍速デコーダーで、1回転1000パルス相当(20kHzの変化)となり、ワッチが楽になりました。

出来上がりからここまで、毎週のように装置の中身が変化しました。hi.
これで当分、余り変化しないと思います。 ← ホンマか?

③ VFOのDDSに使われている、125MHzの水晶発振器を、TCXOに取替
当初の水晶発振器は、立ち上げ数分間に1kHz程周波数が動きました。7MHz用VFOでは150Hzの変化に相当します。
数分間待てば良いのですが、それでも取り替えたい・・・。hi.



<基板追加に必要なネジ穴は・・・>

新たな基板を取付ける時などに、装置内部にネジ穴を明ける必要があります。
しかしドリルの切りくずが既存の基板に飛び散ると、大変NGです。
このような時私は、紙で三角または四角の筒を作り、シャーシに貼り付けて飛散を防いでいます。
詳しくは本HP内の、「装置内部での穴あけ時の工夫」のページ(URLはこちら)をご参照ください。

<蛇 足>
私は、放熱器をグレーに塗装する事が多く、「黒の方が良いのでは?」と言われることがあります。放射伝熱の促進には、黒色が良いという基本からの意見だと思います。

私は学生の頃に伝熱をかじったことがあり、放射熱が実質的に影響してくるのは高温側が100℃以上の世界(絶対温度の4乗に比例)で、数十度以下の放熱器では、自然対流の伝熱係数が支配的と理解しています。

また、この程度の温度域でのペンキの放射率は、銀色や金属光沢の場合を除き、例え白色でもそれほど変わりません。
(勿論、火炎や太陽からの放射熱を受ける場合は、それらの温度が高いため、色によって相当に異なります)

それを知って以来、未塗装の放熱器など、要塗装の場合はグレーを用いるようになりました。
(黒は、どうも重たい印象があり、ケースと同じ色では何となく不気味な印象を感じるため)
そう言えば、メーカー製無線機で塗装無しの放熱器もありましたね。

一方、塗装による伝熱抵抗の懸念も想起されますが、1mmよりも薄い塗膜の伝熱抵抗は、自然対流のそれに比べてはるかに小さいものです。
そのため、躊躇なく再塗装もしています。hi.





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